2008年 8月29日(金) 11時59分
中国「独占禁止法」−事業者結合に関する「届出基準」
中国法務最前線(70)−久田眞吾(日本及びニューヨーク州弁護士)
中国の「独占禁止法」は2008年8月1日から施行されたが、8月3日、国務院は、「独占禁止法」に基づいて「国務院の事業者結合届出基準に関する規定」(以下「届出基準規定」という)を公布し、同日、これを施行した。今回は、この「届出基準規定」のポイントを紹介する。
■「独占禁止法」と事業者結合規制
「独占禁止法」は、「独占協定」、「市場支配的地位の乱用」、及び「競争を排除する又はそのおそれのある事業者結合」を「独占行為」として規制している。このうち「事業者結合」とは以下の取引をいう。
(1)事業者の合併
(2)事業者が持分又は資産の取得の方法により他の事業者に対する支配権を取得すること
(3)事業者が契約等の方法により他の事業者に対する支配権を取得し、又は他の事業者に決定的影響を与えることが可能となること
「独占禁止法」によると、「国務院の定める届出基準」を充たす事業者結合については事前に独占禁止法執行機構に届出をしなければならない。「独占禁止法」が施行されるまでは、「外国投資者による国内企業の買収に関する規定」(以下、「外国投資者買収規定」という)に基づき、外国投資者による中国国内企業又は外国企業の買収が一定の基準を充たす場合についてのみ商務部への届出が要求されていた。しかし、「独占禁止法」の施行により、外国投資者による企業買収に限らず、中国内外の事業者の結合で「国務院の定める届出基準」を充たす場合は届出をしなければならないこととなった。
「国務院の定める届出基準」を定める規定としては、2008年3月27日に「国務院の事業者結合の届出に関する規定(意見募集稿)」が公表され、関係各界からの意見を踏まえてさらに検討が行われていた(「意見募集稿」の概要は本連載第67回で紹介した)。今回制定された「届出基準規定」は、かかる検討の結果、制定されたものである。
■事業者結合の届出基準
「届出基準規定」によると、事業者結合が以下のいずれかの基準に該当する場合は国務院商務主管部門に届出をしなければならない。
(1)結合に参加するすべての事業者の前会計年度の全世界での売上高が合計100億元を超過し、かつ、そのうち少なくとも2事業者の前会計年度の中国における売上高がいずれも4億元を超過する場合
(2)結合に参加するすべての事業者の前会計年度の中国での売上高が合計20億元を超過し、かつ、そのうち少なくとも2事業者の前会計年度の中国における売上高がいずれも4億元を超過する場合
「外国投資者買収規定」の下では、外国投資者による国内企業の買収の場合の売上高基準は「買収当事者の一方の中国における売上高が15億元を超えること」、外国投資者による国外企業の買収の場合の売上高基準は「買収当事者の一方の中国における売上高が15億元以上であること」とされていた。これと比べると、「届出基準規定」では、中国における売上高額はすべての買収当事者の合計額を届出基準とし、20億元というように大幅に引き上げられたことが分かる。
また、「届出基準規定」の定める届出基準には、「外国投資者買収規定」にはなかった「少なくとも2事業者の前会計年度の中国における売上高がいずれも4億人民元を超過する場合」という要件が追加されている。このため、いずれかの事業者が大企業であって、世界又は中国における売上高が100億元又は20億元に達していたとしても、他の結合に参加する事業者の中国での売上高が4億元に達しない場合は届出をしなくてもよいこととなった。
なお、「外国投資者買収規定」は、買収当事者の中国市場における市場シェア、中国における保有資産、中国における関連会社の数を届出基準としていたが、「届出基準規定」はこれらを届出基準として採用せず、売上高のみを届出基準とした。
■事業者結合規制に関するその他の問題
「届出基準規定」によると、「売上高」の具体的な計算方法は、国務院商務主管部門が関連部門と共同で定めることとなっている。「外国投資者買収規定」の下では、実務上、「売上高」は当事者の単体の売上高ではなく、買収者の場合は親会社及び子会社の売上高を含む売上高の合計額、買収対象会社についてはその傘下の子会社の売上高を含む売上高の合計額について届出基準が適用されていた。そのため、「届出基準規定」の下での「売上高」の具体的な計算方法がどうなるかが注目されるが、現時点までに得た情報では、「外国投資者買収規定」の下における実務が基本的に維持されることになるようである。
「独占禁止法」は、国務院に「独占禁止委員会」を設置すると規定するほか、法の執行は国務院が定める「独占禁止法執行機構」が行うと規定している。「独占禁止法」に関連する中央政府の機関としては国家発展改革委員会、商務部及び国家工商行政管理総局があるが、「届出基準規定」は、事業者結合の届出は国務院商務主管部門に対して行うべきものとした。したがって、事業者結合の規制に関しては、商務部が「独占禁止法執行機構」として関係事務を所管することになるものと思われる。
ところで、「独占禁止法」が8月1日に施行されたが、上述した「外国投資者買収規定」が廃止されたわけではない。「外国投資者買収規定」は商務部等国務院の6つの部門が共同制定した「部門規則」(日本の省令に該当する)であるから、「独占禁止審査」と題する第5章は「独占禁止法」及び「届出基準規定」の施行により基本的に効力を失ったと思われるが、その他の規定は依然として効力を有する。
外国投資者による企業買収について、商務部条約法律司が「外国投資者買収規定」に基づき定めた「外国投資者による国内企業買収に関する独占禁止届出ガイドライン」が「独占禁止法」施行後も効力を有するか否かは明確ではない。しかし、これに代わる規則ないしガイドラインが制定されるまでは、「独占禁止法」及び「届出基準規定」に抵触する規定は別として、この「ガイドライン」の規定が実務の指針となると思われる。したがって、事業者結合の届出をする場合にはこの点に留意するとともに、適宜、商務部に照会、確認をする必要があると考える。(執筆者:伊藤見富法律事務所/外国法共同事業モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所 弁護士 久田眞吾)
【関連記事・情報】
・中国の事業者結合に関する「意見募集稿」(2008/06/13)
・中国の独占禁止法(3)(2008/01/24)
・中国の独占禁止法(2)(2007/12/11)
■関連トピックス < 経済 > マクロ > 法律 > < 経済 > コラム > 中国法務最前線 >